La gran historia〜遠き日より憧憬を込めて〜
 
剣と魔法のファンタジー異世界【Granhistoria】。
記されることのない歴史を記そう。
語られることのない歴史を語ろう。
そこに、伝えたい想いがあるから―――
 
◇島
始まりの島・レゾ【rezo】
 世界の中心に在る、〈二柱の創世神〉の一人、母神・ユグドラシルとその巫子・黎樹のいる全ての始まりの場所。
 次元がずれている為に誰も辿り着けない伝説の島。
 
忘れられた島・ヴェルゲッセン【vergessen】
 かつて其処には南大陸が在り、嫉妬深い女神を祭る神殿によって治められていた。
 女神は叶わぬ恋に狂い、大陸の人間まで巻き込んで世界に〈澱〉をバラ撒いたため、魔力の民は次々に〈澱〉に倒れ純血の民は死に絶えた。
 〈二柱の創世神〉に匹敵する〈器〉を有する魔力の民の長は、世界を膨大な〈澱〉から護るため大陸諸共に全てを異空間に封じ地上から南大陸を消し去った。
 人間は彼女を〈魔王〉と呼び恐れ、〈救世主〉を祭り上げる。〈魔王〉は〈救世主〉の力をも利用して、自らを楔に浄化の陣を完成させ地上から消え去った。
 やがて、かつて南大陸が在った海にぽつりと浮かぶ魔力の民の村であった地は、魔術師以外には辿り着けない魔術師の安らぎの地〈忘れられた島〉と呼ばれるようになる。
 島の何処かでは、千年もの永き時間、魔力の民の長が自ら生贄の柱となり世界と異空間の〈澱〉を浄化し続けていると言う―――
 
 
◇北大陸◇
氷雪の聖地・ネーヴェ【neve】。
 一年中氷雪に覆われた極寒の地。
 平地よりも強い獣が住み、此処で暮らす民は皆戦士として育つ。名声に興味の無い純粋に強さだけを求める者が集う。
 古代龍の住まう渓谷〈竜の頤【あぎと】〉には、始まりの島レゾに行く為の〈道〉が在ると言われる。
 この地で生まれ育った民は氷雪の民と呼ばれ、多かれ少なかれ氷雪の力を持っている。
 
渓谷・コントルノ【contorno】
 氷雪の聖地と他を隔てる険しい渓谷。
 生半可な者では超えられない。
 この地に住まう少数の民は渓谷の民と呼ばれ、生き抜く過程で進化していった強い占者の力を持つ。
 
商都・メズシーラ【mezcla】
 北大陸の西の端に在る貿易国。
 様々な人種が入り乱れる雑多な国で、野心を持つ商人達が各地から集い、常に猥雑な雰囲気を持つ。
 貧富の差が激しく、貧民街【スラム】では常に何かしらの犯罪が起こっている。
 この国で生まれ育った民は商都の民と呼ばれ、商才に長けた者や野心の強い者が多い。
 
聖都・クレンシア【creencia】
 北大陸の中央よりに在る法王を頂点に頂く宗教国家。
 周辺諸国に強い影響力を持ち、かつてエスパーダと風の聖地を争った。
 この国で生まれ育った民は聖都の民と呼ばれ、愛国心が強く敬虔な者が多い反面、融通の利かない堅物も多い。
 
風の大地・リベラ【libra】
 北大陸の中央から東にかけて広がる高原。中央に平原、南に岩砂漠、北に断崖絶壁を持つ。
 北大陸の東西を繋ぐ唯一の行路で、野党や盗賊の被害が後を絶たない。
 何処かに〈二柱の創世神〉の一柱、時女神エヴァーラスティンが眠る聖地に繋がる〈場〉が在ると言われている。
 この地で生まれ育った民は風の民と呼ばれ、生涯を風の如く旅路に生きる。彼らは身の内に風を抱えており、停滞し淀むと崩壊する。
 
戦都・エスパーダ【espada】
 風の大地の西に在る軍事国家。
 過去、風の聖地に攻め入ろうとした王を持つ。
 この地で生まれ育った民は戦都の民と呼ばれ、権謀術数を含めた様々な戦いを好む血の気の多い者が大多数を占める。氷雪の民と対照的に、名声やそれに伴う名誉・利益を追求する傾向がある。
  
  
◇東大陸◇
匠都・蒼藍【そうらん】
 東大陸唯一の国。
 皇帝を頂く大国で首都は悠久【ゆうきゅう】。北大陸に接近する地に大きな港町・繋継【はんけい】を持つ。
 この国の民は黒髪・黒目が大多数を占めるが、皇族は誰もが碧の瞳をしていて瞳の碧が深いほど血の濃い証。
 この地で生まれ育った民は匠都の民と呼ばれ、手先の器用な細かい作業に長けた者が多い。匠都の細工物は各地で絶大な人気を誇り、また業物と呼ばれる武器防具の多くを匠都産が占める。
 遥か昔、東と西の大陸が一つの大地であった頃の名残で、東西大陸は共に漢名を持つ者が大部分を占める。ただし、海に接する港付近には北大陸の文化が流入していて、漢名と英名を持つものが入り混じっている。
 
 
◇西大陸◇
海都・シエロ【cielo】
 農業と漁業によって成り立つ、貧富の差のあまりない穏やかで住みよい国。
 西大陸はかつて幾つもの小国に分かれて戦乱が耐えなかったが、傭兵王の二つ名を持つ王が統一した。彼が唯一愛した妻の名から国名をとっている。
 この国の王城は海に隣接しており、王族は代々海神の親愛を得ている。その証に、王族とその血縁者は皆、深海の双眸を持っている。
 この地で生まれ育った民は総じて海都の民と呼ばれるが、国民自身は海辺の民を海属の民、内陸の民を地属の民と呼ぶ。
 
 
◇南大陸◇
 その昔、世界には三種の守人が居た。
 
 一つは〈始まりの島〉への〈道〉を守る氷雪の民。
 一つは時女神の眠りを守る風の民。
 一つは〈澱〉から世界を守る魔力の民。
 
 氷雪の民は、一年中雪と氷に覆われた地にて己を鍛え、母神へと至る〈道〉を守った。
 風の民は、その身に宿した風と共に世界中を巡り、女神の眠りを妨げるものから守った。
 魔力の民は、人間でありながら魔力を宿し、人や神の欲望から生み出される〈澱〉から世界を守った。
 
 氷雪の民は外の血を取り入れつつ〈道〉を守り続け。
 風の民は外と交わりながら女神の眠りを守り続け。
 魔力の民はその身を浄化のための濾過装置と化してまで世界を守り続け―――しかし、〈澱〉を撒き散らした神と人間により滅ぼされ、貶められた。
 
 ―――――今は昔の話である。
 
 
◇神
 定まった器を持つ上位の存在。動植物や刀剣等の器に宿り、一己の力が強大な者達。
 様々な意味で人に馴染み深く、時に慈悲深く、時に容赦なく、時に嫉妬深く、常に自分本位で、基本的に我が侭な困った方々。(荒ぶれる神として奉じられるとともに封じられていた炎蛇神とか。一方的に懸想した挙句、妻を殺された男に〈喰い〉殺された女神とか在り)
 最高神は〈二柱の創世神〉。(どちらも女神なのは、作者の『命を生み出す者=母親』のイメージから)
 一つの国の守護に付く神もいるが、一人山奥などに神域を構え、たまに他者にちょっかいをかけながら勝手気ままに存在している神の方が多い。
 愛した存在に聖痕を与える事がある。
 
 
◇精霊
 定まった器を持たない上位の存在。自然現象を司る者達。
 世界に満ち、世界を構成する、最小の存在で在り、全ての存在。
 大きな力を持つほどはっきりとした自我を持ち、明確な形を取れるようになる。神は精霊より上位とされているが、一己の力が勝っているに過ぎず、精霊が全て敵に回れば神と言えども存続できない
 地水火風光闇の精霊王を戴き、在るがままに在ることを信条とする。
 
 地の精霊王:地祇【ちぎ】
 黒緑の髪と黄銅の瞳を持つ穏やかな美女。命を育み還す地の化身。
 
 水の精霊王:水葵【みなき】
 水藍の髪と碧玉の瞳を持つ激しさを秘めた美女。命を生み滅ぼす水の化身。
 
 火の精霊王:火羅【から】
 鮮赤の髪と黒檀の瞳を持つ苛烈な青年。命を暖め焼き尽くす炎の化身。
 
 風の精霊王:風凪【かざなぎ】
 淡銀の髪と青玉の瞳を持つ飄々とした青年。命をただ見つめ吹き過ぎる風の化身。
 
 光の精霊王あるいは天主:白夜【びゃくや】
 純白纏う優しい元古代竜であった今は魂だけの存在。旅立つ魂を送る〈天の門〉の守人。
 
 闇の精霊王あるいは冥主:黒陽【こくよう】
 漆黒纏う真面目過ぎる青年。還る魂を迎える〈冥の門〉の守人。
 
 樹の精霊:樹里【じゅり】
 黒茶の髪と葉緑の瞳を持つ悪戯好きな童女。雑草から古木まであらゆる草木の始まりから終わりを見守る精霊。
 地祇と風凪の娘。莱葉とは古い友人同士。
 
 月の精霊:月姫【つきひめ】
 月色の髪と夜色の瞳を持つ儚げな十二単の美少女。月の満ち欠けにより生ずる力を利用して〈澱〉を浄化する精霊。
 白夜と黒陽の娘。世界の自浄作用。
 
 
◇聖痕
 それぞれの神の『想い』の証。
 形はそれぞれ。力を使う際に輝きを纏い、刻まれた神の真名が浮かび上がる。完名に近いほど〈想い〉が深く、より大きな加護を持つ。(例:時女神の聖痕は紫銀の捩じれた輪。母神の聖痕は金緑の世界樹の葉)
 贈る理由は、愛情、友情、慈愛など等様々。
 伴侶や巫子、神官に守護の証として贈られる事もあれば、慕わしき友人に贈られる事も在る。また、魂の美しさを愛された胎児や赤子が生まれながらに持つ事も在る。
 複数の神に愛される者も稀だが存在し、魂そのものに贈られる者もさらに稀だが存在し生まれ変わるたびに持つ。
 〈紫眼の占者〉は魂そのものを時女神に愛された女神の伴侶。
 
 
◇時女神【Everlasting】「時を刻む運命の神」
 世界を囲み廻り続ける〈流転の環〉を纏う、銀髪と紫銀の双眸を持つ女神。〈二柱の創世神〉の一柱。
 星の過去・現在・未来を夢見、世界の始まりから終わりまで眠り続けている。
 ごく稀に彼女の見る夢と現世を繋ぐ〈路〉―――〈夢路〉が開き、嵌った者は女神の夢を通じて何処かへ跳ばされてしまう。〈夢路〉は過去にも未来にも異世界にも通じていると言う。
 初めて夢を通じて彼女の傍まで辿り着いた魂を愛し、聖痕を与える。「紫眼の占者」は彼女の我が侭な願いにより不老不死状態。
 
 
◇母神【Yugdorashil】「全てを生み出す創造の神」
 世界中に根を張り枝葉で包み込む〈世界樹〉の姿と、黄金の髪と金緑の双眸を持つ母性有る美女の姿を併せ持つ半神半樹の女神。〈二柱の創世神〉の一柱。
 グランヒストリアを創造し、数多の存在を生み出し、今なお世界をそっと見守り続ける〈世界の母親〉。
 一番最初に生み出した〈生命の束〉を持つ己が巫子と共に始まりの島レゾに在る。
 
 
◇破壊神【Ragnarok】
 〈二柱の創世神〉より同位であると認められ神位を贈られた、異世界の破壊兵器の先祖返り。
 本人は甚だ不本意だが事実であるため拒否もできず、最近はすっかり開き直っている。
 唯一絶対の相棒が〈澱〉の犠牲になりかけたことにキレて、従来の濾過機構を破壊し再構築した張本人。
 「自分の生み出した〈澱〉の始末くらい、自分の存在で贖ってくださいね?(にーーーっこり)」には〈二柱の創世神〉すら何も言えなかったらしい。
 
 
◇福音の巫子〈エヴァンジェル=エヴァーラスティン〉
 〈二柱の創世神〉より人の世の最高位の巫女に贈られし名。「永遠の福音」の意。世界樹の巫女は厳密には人の世の範疇に入らないため除外。
 最高位の巫女は創世神を降ろす事も可能。ただし、相応の器が無くば受け止めきれずに壊れる。
 取り敢えず、本人は断固拒否しているが今代最高位の巫子〈エヴァンジェル=エヴァーラスティン〉の名を贈られ、二女神を同時に降ろしても壊れない器を持ってるのが女性体のシヴァ。ただし、降ろしたら暫くの休眠を余儀なくされる。 
 
 
◇〈澱〉
 神や人間などの『黒き意思』が世界の自浄を超えて沈殿し、世界を蝕むにまで至った『世界を滅ぼす毒素』。
 魔力の民だけがその身を濾過装置と化すことで世界から取り除くことができる。しかし、そのため魔力の民は〈器〉が小さな者ほど〈澱〉が早く溜まり、生きながら腐り落ち死んでいく。〈澱〉は受肉した〈器〉の崩壊と共に再び世界に解放されるため、限界を悟った者は自ら最期の魔力で己ごと焼き尽し浄化させる。
 三人目の〈浄化の柱〉を家族とした破壊神が現状に激怒し、世界そのものに喧嘩を売って濾過機構ごと叩き壊して再構築した後は〈澱〉は『生み出した存在』に還るようになり、〈澱〉によって変質し正気を失くした『生きながら腐り落ちるもの』が生者を襲うようになる。〈自業自得のなれの果て〉と呼ばれるそれらは、〈澱〉が浄化されるまで死ぬこともできずに生きたまま腐り続ける。賞金も懸けられた世界共通の討伐対象になり、軍人や傭兵達の仕事の一つとなる。
 また、受肉した〈澱〉を燃やして浄化できる魔力の民の末裔である魔術師は、その力により迫害対象から特別待遇となっていく。しかし、本人たちは何不自由無い豪奢な囲いよりも草木と共に在れる外を望み、今まで以上に〈忘れられた島〉に篭るようになる。そして、魔力の民を思う破壊神や他の守人たちに「ナニ、てめぇらの都合の良いことばっかぬかしてやがる」とさらに人間そのものが嫌われるようになったとかならなかったとか……。
 
 
◇時女神の守人(風の民/神楽の道化)
 風の大地に生きる、音楽と舞踊を愛する留まる所を持たぬ放浪の民。
 風を決して留められぬように、風を身の内に宿す風の民もまた、無理に留めれば、澱み、濁り、〈病み〉、〈崩壊〉する。〈崩壊〉とは局地的な台風や竜巻などのようなものであり、否応無しに周囲をも巻き込む。無理やり留められた民が相手に報復するためにわざと巻き込んで〈崩壊〉することもある。身の内の風は自らの意思で解き放つこともできるが、解き放つ力が大きければ大きいほど〈崩壊〉に繋がる。また、新たな風で満たすために通常よりも短い期間で別の土地に移動しなければならなくなる。
 風の民は同族の母胎からしか生まれない。民はほぼ全員女で、〈病んだ風〉からしか男は生まれない。理由は、一族の中に〈病み〉を残さないため。故に、男は女と違って他族との生殖能力が無く、同族以外とでは子供は生まれない。生まれた子供は母親の血を強く継ぎ、父親の血は僅かしか継がない。〈病み〉の重度にもよるが概ね一世代目は完全な男性体、二世代目は男性体と女性体の姿を持ち、女性体からなら〈正常な風〉を持つ女の子を産むことができる。
 男女ともに女性的な美系ばかりで最盛期で肉体年齢が停止する。死ぬ一年くらい前から急激に老いだし、外見年齢30歳前後で死を迎える。死期を悟った民は誰にも迷惑のかからぬ場所で最期を迎える。死もまた留まることに変わりは無いため〈崩壊〉するが、天寿による〈崩壊〉は殆ど威力を持たない。死ぬと体が塵と化して体内から放たれた風に吹き散らされ風に還る。
 民の間では「全ての風は風の大地にて生まれ、風の大地に帰る」という言葉があり、例え地の裏側に吹き行こうとも、必ず風の大地にて終わり、風の大地にて再び生まれると言う。故に風の民もまた風の大地に〈帰る〉定めを持つ。
 風の民の母親からのみ特性が伝わる女系一族。
 束縛するのもされるのも大嫌いな、自由人で愉快犯の快楽主義者。
 時女神の眠りを護り、自らの生き様によって女神を退屈させず常に楽しませることを存在理由とする。
 
 
◇母神の守人(氷雪の民/至高の剣と楯)
 極寒の地ネーヴェに生きる、心身の強さを追求して生きる戦士の民。
 聖地の厳しい自然の中で暮らすうちに少しづつ身の内に氷雪の力が蓄えられていき、解放すれば吹雪さえ起こせるが、解放した民は力の影響で細胞ごと氷に変じてしまう。力が小さければ身体の一部(髪など)で済むが、大きければ完全な氷像と化してしまう。
 普通の人間と同じ年の取り方をするが、死ぬと解き放たれた氷雪の力により氷像と化し、砕け散って遺体を残さない。
 15歳で成人となり、〈六花〉を捧げる相手を見出すために旅立つ。〈六花〉とは、体内に蓄えた氷雪の力によって生涯一度だけ刻むことのできる誓痕のこと。捧げられた相手は、左胸に氷の光沢を持つ雪の結晶を模した六枚花弁の薄青い誓痕が刻まれる。誓いを捧げられた当人を「〜〜の〈立花〉」とも呼ぶ。
 〈立花〉を捧げた相手が死ねば、〈立花〉を通じて氷雪の力が解放され、殺害者諸共凍りつく。また、力を解放した氷雪の民も氷像と化して砕け散る。例外として、捧げた相手が天寿で亡くなった場合のみ、誓痕が溶けて消える。
 護ると定めたものを護り抜く為に強さを求める、その身に流れる血ではなく宿す意志によって継がれていく一族。
 こうと決めたら絶対に引かない、頑固で有言(不言)実行な徹底主義者。
 〈始まりの島〉への道を護る役割を自ら請け負う。
 
 
◇世界の守人(魔力の民/紅瞳【あかめ】、魔術師)
 かつて存在した南大陸の秘境に生きた、人間でありながら魔力を有する民。
 魔力が大きければ大きいほど〈器〉が大きく寿命も長い。力を行使する際に瞳が紅く染まり、長【おさ】並みの強い魔力を持つ者は、常から双眸が深紅に染まっている。
 彼らは皆、世界の生贄の柱としての己を嘆くことも無く、濾過装置としての悲惨な最期―――生きながら腐り崩れる自らの身体を最期の魔力を振り絞って燃やし尽くす―――と隣り合わせで在りながら、精霊を友とし心穏やかにひっそりと隠棲していた。
 純血の魔力の民が滅ぼされた後は、時折人間の母親から生まれるようになる。魔力の民の血が濃いほど生れ易い。
 魔力の民の力に目覚めることを〈覚醒〉と言い、それは同時に濾過装置と化すことでもある。今では魔術師と呼ばれる彼らは、皆かつて魔力の民と呼ばれた存在の転生体で、魂に刻まれた記憶故にかつての自らの死に様までも記憶している。通常の人間とは異なる能力や寿命故に迫害される。
 魂が完全に摩耗し消滅するまで自ら濾過装置となるために転生を繰り返す彼らの心は、あまりに生まれながら死に近しかったが故に、ある意味で修復しようもないほど壊れているのかもしれない。
 もう決して増えず擦り減る一方の、かつて魔力の民と呼ばれた魂が転生することによってのみ存続する一族。
 他を犠牲にするくらいなら己を差し出す、究極のお人好しな博愛主義者。
 世界を蝕む〈澱〉を己の身体を用いて濾過し、世界を〈澱〉より護る役割を持つ。
  

 

 

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