「白夜」
  
「もう、時間だよ」
 どこか優しい瞳で、優しい声で。
 泣きそうな子供をあやす様に、諭すように。
 その存在は、誰よりボクの内側に在ったその存在は、そっと優しく『終わり』を告げた―――
 
 そう告げられた瞬間、「ああ、もう『終わった』のだ」と解った。
 『終わった』のだ。
 ずっと、ずっと―――
 皆と同じ、何も違わない、ただの人で在りたくて。
 自分は人間なのだと。
 皆と同じなのだと。
 皆と何も違わない存在なのだと。 
 ずっと目を瞑り、耳を塞いできた。
 でも。
 もう、『終わった』のだ。
 妖の自分から目を逸らし続けてきた時間は。
 ただの人間として在りたいという我侭を許された時間は。
 背負ったものから逃げ続ける『子供』でいられる時間は。
 もう『終わった』のだ。
 誰より傍にいて許し続けていてくれた優しい優しい『リクオの中のぬらりひょんの血』は。
 微温湯の微睡みを許し続けていてくれた優しい『リクオの中の人ならぬ妖の血』は。
 やっぱり誰より優しく、誰よりリクオの事を一番に想って。
 
「もう“目覚める時間”だよ」
 そう酷く優しい瞳で、優しい声音で、そっと告げた。
 
 だからボクは、「もう、『起き』なきゃ」って素直に思えた。
 ずっと許し続けてくれたから。
 ずっと許され続けてきたから。
 「護りたいものを護る力」をくれた優しい優しい血。
 「護りたいものを護れた」優しい優しい力。
 一番最初。優しい光をくれた、大事な同い年の幼馴染を護るため。
 二回目。たくさんの事を教えてくれた、心配して怒ってくれた、大事な年上の幼馴染を護るため。
 そして、三回目。やっぱり、大事な友達を護るため。
 いつだって、大事なものを護りたくて力を求めた。
 いつだって、大切なものを護る為に力をくれた。
 “目覚める”よ。 
 この身体に流れる1/4の血がとても優しい事を知ってる。
 “目覚める”よ。
 この血と同じ優しい血が流れている『家族』を知ってる。
 “目覚める”よ。
 この『血』が悪いものじゃないのを、もう、ボクは、『知ってる』。
 ごめん。
 ずっと目を瞑っていて。
 ごめん。
 ずっと耳を塞いでいて。
 ごめん。
 ずっと忘れたふりをしていて。
 こんなにも、この血は優しく温かかったのに。
 もう目を逸らさないから。
 もう逃げたりしないから。
 ―――もう、ボクの中の妖の血に怯えたりしないから。
 さあ、固く瞑っていた瞼を開いて。
 さあ、俯いていた顔を上げて。
 さあ―――
 
「夜明けまでのねずみ狩りだ」
 
 微睡みの時間は『終わり』だ。
 

 

 

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